12/20 チャップリンとヒトラー

政治的な意見がしたいわけでもなく、自分の思ったことなどを押し付けたいわけではないですが、どうしてもシェアしたいことがあるので話します。年末ですし、やり残したことがないようにしたいので、長いですがよろしければお付き合いください。


以前もブログで書きましたが、9.11をきっかけに私の人生や価値観が大きく変わりました。世界はどんどん怒りを勢いに身を任せてい、自分は何もできず、自らの無力感にとてもモヤモヤしました。


最近ではパリでテロもありましたね。私の友人は誰一人巻き込まれませんでしたが、みな心を傷めました。私もです。それと同時にイスラム教徒の人への偏見、迫害や民間人が爆撃によって亡くなることがとても許せないのです。どちらの悲劇も比べようがなく、悲しい事実です。このキリスト教徒vsイスラム教徒の構造になりつつある世の中は、ナチスドイツ時代のヒトラーを思い起こさせてやまないのです。いまの世界は非常に不安定で、恐怖に満ちあふれています。このやるせない自分の気持ちをどう処理していいのか、ずっとわかりませんでした。毎年9月11日が来るたびに同じ質問を繰り返して、色んな人と議論をして、それでもうまく答えを出すことができませんでした。そもそも答えなんか見つからない問題でもあるのですが、気持ちの整理をつけたかったのかもしれません。


今回は戦争や争いの理由や原因などを追求したいわけではありません。ただ1人の人間としてどう気持ちで生き、世界とどう向き合えばいいのか、なんとなくわかった気がするきっかけとなった映画があるので紹介したいと思います。


ここでやっと本題なのですが、その映画は

『チャーリー・チャップリン/独裁者』です。大学のメディアと政治という授業で紹介されて、観て、大変感銘を受けました。


この映画は、チャップリンナチスドイツの独裁者アドルフ・ヒトラーに対抗するために作った皮肉のこもった映画です。チャップリンといえば、言葉を使わず面白おかしく、そしてたまに素敵なロマンスのある喜劇王として有名ですが、この映画はチャップリンが作った初めてのトーキー(台詞のある映画)です。ヒトラーと闘うべく様々な妨害に臆することなく、ヒトラーの資料を集め徹底的で事細かな台本を2年もの歳月をかけて書き上げます。チャップリンはその映画で主演を務め、ヒトラーを思わせる役を演じ、見事に演じてみせます。


ヒトラーの当時のカリスマ性はその演説のうまさにあったと言われています。その演説や仕草や言葉遣いも徹底的にオマージュし、ヒトラーに対抗すべくチャップリンは想いを言葉にして映像にぶつけるのです。その映画は世界的に評価されているのですが、その所以は最後の5分間の演説にあります。ヒトラーの演説力を見事に再現しつつも、感動的なスピーチをしてみせます。私も涙がこぼれるのではないかと思うほど感動しました。いかに文章を書くのでぜひその内容を読んでください。(


以下の翻訳文は大野祐之『チャップリンヒトラー岩波書店2015年より抜粋します。)


結びの演説。


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 申し訳ない。私は皇帝なんかにはなりたくない。そんなのは私のやることじゃない。誰かを支配したり征服もしたくない。できれば、ユダヤ人にしろキリスト教徒にしろ、黒人にしろ、白人にしろ、みんなを助けたいと思っている。

 私たちはみんな、お互いを助けたいと望んでいる。人間とはそういうものだ。他人の不幸によってではなく、お互いの幸福で支えあって生きていきたい。私たちは、お互いを憎んだり軽蔑したりしたくはない。この世界には一人ひとりのための場所があるんだ。そして、良き大地は豊かでみんなに恵みを与えてくれる。


 人は自由に美しく生きていけるはずだ。なのに、私たちは道に迷ってしまった。貪欲が人の魂を毒し、憎しみで世界にバリケードを築き、軍隊の歩調で私たちを悲しみと殺戮へと追い立てた。スピードは速くなったが、人は孤独になった。富を生み出すはずの機械なのに、私たちは貧困の中に取り残された。知識は増えたが、人は懐疑的になり、巧妙な知恵は人を非常で冷酷にした。私たちは考えるばかりで、感情をなくしてしまった。私たちには、機械よりも人の心、抜け目のない利口さよりも優しさや思いやりが必要だ。そういったものがなければ、人生は暴力に満ち、すべては無になってしまう。


 飛行機とラジオは私たちを結び付けた。本来それらの発明は人間の良心に訴えて、国境を越えた兄弟愛を呼び掛け、私たちを一つにするものだ。今も、私の声は何百という人々に届いている。何百万もの絶望する男や女、そして小さな子供たち、人々を拷問し罪なき者を投獄する組織の犠牲者たちに。そんな人々に言おう、絶望してはならない、と。今、私たちを覆う不幸は、消え去るべき貪欲、人間の進歩の道を怖れる者の敵意でしかない。憎しみは消え去り、独裁者たちは死に絶える。彼らが民衆から奪い取った権力は、再び民衆のもとに戻るだろう。人に死のある限り、自由は決して滅びることはない。


 兵士たちよ!けだものに身をゆだねてはならない!あなたたちを軽蔑し、奴隷にし、生き方を統制し、何をして、何を考えて、どう感じるかまで指図する奴らに。彼らはあなたたちを猛訓練させ、食事まで規制し、家畜のように扱って、大砲の餌食にする!そんな血が通っていない奴らに身を委ねてはならない。機械の頭と機械の心を持った機械人間に。みんなは機械じゃない、みんなは家畜じゃない、みんな人間なんだ!心に人間の愛を持っているんだ。憎んではならない。ただ愛されない者だけが憎むのだ。愛されない者と血の通わぬ者だけが。


 兵士たちよ!奴隷のためにではなく、自由のために闘おう!「神の国はあなた方のうちにある」と『ルカ伝』17章に書いてある。それは、一人の人や、一つの集団ではなく、すべての人々、みんなのうちにあるんだ!あなたたち、民衆は力を持っている!機械をを生み出す力を。幸福を創る力を、あなたたち、民衆はこの人生を自由で美しいものにし、素晴らしい冒険にする力を持っている!さあ、民主主義の名のもとに、その力を使うんだ!力を合わせて、新しい世界のために闘おう!人々には仕事の機会を与え、若者には未来を、老人には保障を与える立派な世界のために。


 けだものたちもそんな約束をして権力に上り詰めた。だが、彼らは嘘つきだ!彼らは約束を守らない。絶対に守ろうとしない。独裁者たちは自分たちを自由にし、民衆を奴隷にする。今こそ、あの約束のために闘おう!世界の解放のために闘うんだ。国同士の壁を取り除くために、貪欲と憎しみと偏狭を取り除くために。理性ある世界---科学と進歩がすべての人々の幸福へと通じている、そんな世界のために闘うんだ。

 兵士たちよ、民主主義の名のもとに、持てる力を集めよう!


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YouTubeのリンクもつけました。字幕付きです。ぜひチャップリン自身の声、身振り手振りとその言語での演説力にも注目してみてください。


http://youtu.be/xl2e69fEFf4


“Let us unite!”、「ひとつになるんだ!」(引用した本の翻訳上は「持てる力を集めよう」)、”Do not despair”、「絶望してはならない」。この力強い言葉に私は心を打たれ、救われました。皆さんはいかがでしたか?1940年の映画なのですが、今でもなお人の心を動かします。当時は日本でも、いろんな国でもアメリカでさえ公開禁止、または批判の声がありました。しかしそれが現在は見直されてきて評価されてきています。そんな時代がきて、やっとチャップリンの想いが自由に放たれたと思うとなんだか嬉しいです。それと同時に、1940年の映画が現在の社会問題に対しても影響力を与え、再評価されている内容になっています。チャップリンの想いが届き、救われ、人々が幸福が向かう日が来るように祈り、思考を止めず、ひたすら世界の声を聴く、それがこの映画をみた私の使命ではないかと考えています。皆さんにも伝われば幸いです。たくさんの人が生きるこの世界で、私みたいな人間がどれほどのことができるのかはわかりません。しかし、未来に希望をもって、これからも自分を信じて人生を歩みたいと想います。


<追記>


演説のあとのシーンに私がとても好きなシーンがあるのでそれも紹介します。主人公が皮肉にも愛してしまったユダヤ人の女性にあてた愛の言葉です。互いに離ればなれになり、聞こえるはずのない声が、同じ空を通して彼女に届きます。


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 ハンナ---僕の声が分かる?どこにいても空を見上げて、ハンナ!雲が切れて、日がさし始めた。僕たちは暗闇を抜けて、光の中に入っていく。僕たちは新しい世界に近づいている。もっと心優しい世界に。人間が自分たちの憎しみや貪欲や残忍さを克服する、そんな世界だよ。


 元気を出して、ハンナ。人間の魂には翼が与えられていた。今、やっと飛び始めた。それは虹の中へと飛んでいくーーー希望の光へ、未来へと。輝かしい未来は、君や僕、そして僕たちみんなのものだ。上を向いて、ハンナ、元気を出してーーー。


   Hannah. can you hear me? Wherever you are, look up, Hannah. The clouds are lifting. The sun is breaking through. We are coming out of the darkness into the light. We are coming into a new world, a kindlier world, where men will rise above their hate, their greed and brutality.


   Look up, hannah. The soul of man has been given wings, and at last he is beginning to fly. He is flying into the rainbow — into the light of hope, into the future, the glorious future that belongs to you, to me, and to all of us. Look up, Hannah. Look up.


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彼女へあてた史上最高とも言えるほどの愛の告白、チャップリンは大変なロマンチストだったのですね。言葉の隠喩が素敵ですよね。特に新しい世界のあらわれを「雲が切れて、日がさし始めた」と表現するところや「元気をだして」をcheer upではなく”Look up”ときちんと空に懸けて上(空)を向いて、というメッセージ表現をするチャップリン!!もうすべてにおいて素敵でした。惚れちゃいますね。


もう一つだけ、ハンナの最後のセリフ"Listen"とあります。聴く、それが誰かのスピーチの声であろうと、心の中に聴こえない声であろうと、知らない人の心のぼやきや囁きや嘆きだろうと、向き合って聴こうとする姿勢、それがいまの社会には足りないのではないでしょうか。彼女の最後のたった一言のセリフには、大変な重みがありました。


駄文で自己満足なレビューのようなネタバレなような読書感想文のような文章になってしないましたが、共感していただけましたか?笑 正直まだこの映画の余韻に浸って興奮が冷めやまないです。


要するに、ちゃんと伝える!ちゃんと聴く!ちゃんと表現する!愛と平和の心をもつ余裕をうむ、そして自分自身が自分であり続けること、誰しもが表現者でありうること、可能性をもっている。それを自覚していくこと、それが大切のではないでしょうか。誰しもがアーティストで、誰しもがなんらかの使命を持っているのだと個人的に思いました。


私が伝えたかったことは以上です。最後まで読んでくださった方、ありがとうございました。レスポンスももらえると尚、嬉しいです。(笑)



おしまい